蒼城の小説連載ブログ@不定期

不定期でオリジナル小説の連載をしていきます。

琥珀色の部屋 #1 目覚めた少女

琥珀色の肌

第一章 冷凍された過去

 電流が走ったような痛みを感じて、飛び起きて、慌てて息を吸った。肺の中に酸素が無かったかのように一ノ瀬アキラは、何度も音を立てて呼吸を繰り返した。

 彼女の目に入ってきたのは、手術台にあるような9つの電球がついた位置が変えられる照明器具。呼吸が落ち着いてきたころに、自分自身が危険な状態かもしれないと脳が気づいた。手術台のような台に乗っている自分向かって、槍の形をした機械が向けられていて、今まさに電流がばちばちと音を立てて先端に溜まっている。ひっ、と体をビクつかせるとびちゃびちゃと水が落ちて跳ねる音がした。台の上と床の上は水たまりが出来ていた。

 感電してしまう。また、怯えた。しかし、感電死といったものは杞憂な考えだったようで、槍状のものは天井へ機械音と共に引っ込み、眩しいと感じていた照明器具も、明かりが消えて、天井の窪みへ収まった。部屋は手術室のように清潔感のある白基調であったが、彼女の目の前には腰の高さと天井の間にある大きな鏡があり、先程見たものと台以外何もない部屋だった。

『はじめまして、ジェーン・ドゥ。混乱しているのはわかるし、同情もしているが、もう暫く辛抱してくれ』

 鏡がある方から少年の声がする。声が高いとかではなく、本当に子供の声だ。大人の落ち着きが違和感をアキラに感じさせる。

『同じくはじめまして。私はシャルロットよ。今のはクヌギ博士って名前で立派な成人のおっさんだけど、貴女の混乱は分かるわ。痛みはないから、その台の上でじっとしててね』

 同じく方向から声がするが、今度は大人の女性の声だった。自然と身を出来るだけ守るように、胸の前に無意識に手を持っていたアキラは鏡に向かって頷く。

『今、生体スキャンをするから動かないでね』

 向こうからこちら側が見えているか、頷きを確認したところで、今度は天井からソフトボール程の大きさの浮遊する物体が6個出てきて、目のようなレンズから青白いライトを浴びせ、アキラの周りをくるくる回る。続いて赤いライトを出して、上から下にかけて上下に浮遊した。

『あと血液検査にも協力してくれ』

 少年の方、クヌギ博士が追加の要求をしてくる。言葉を発する直前と後で、カチとボタンのような切り替えの音がする。

『ごめんなさいね。クヌギ博士が念は念を入れてってことで』

 浮遊物体が天井に戻ると、それに合わせて床からアームが伸びてきた。アームの先にはアキラの太ももくらいの太さの装置が着いていて、アキラの目の前に来るとワニのように上下に開いた。

『チクッとするけど、利き手を前に出して』

アキラは全力で首を振った。得体の知れないものの前に右手を出す気にはなれなかった。足に何かされても敵わない、と伸ばされていた足を引っ込めて、台の上で身を縮こませる。

『ただの採血だ。ほら、上手く出来たら飴やるから利き手を出せ』

『飴だなんて子供じゃないんだから』

『注射が怖いだなんて、子供だ。私の娘なんて、母親になるまで飴と引き換えに注射を受けていたぞ』

注射?これが注射?アキラの知っている注射はこんなワニみたいな機械に入れるものじゃない。曲がり曲がっても、こんな機械は血圧を測る時だろう。

「ちゅ、あ、じゃ…あ」

文句を言おうとしたが、声を出しにくかった。まるで喉が錆びついてしまったかのよう。声を出そうとして、うまく声が出ず、咽て何度も咳をする。

『無理に声を出さない方がいいわ。長い間使っていなかったから』

「大丈、夫。……注射器はこんな形してない」

がらがらの声で文句を言うと、暫く考えるような沈黙があった。

機械が1度閉じて、また開くと奥から蛇腹になった管に繋がっているが、アキラが見知った注射器の先端とメモリの付いた容器が見えた。

『これなら近い?』

「は、はい」

『じゃあ、腕を捲くってね。これは指先じゃなくて腕から採血するものだから』

まだマシ、まだマシ。とアキラは必死で唱えながら、着ていた制服の袖を二の腕まで捲り上げる。肌を晒した瞬間、問答無用で刺さる注射器。脈を探したり、アルコールを含ませた脱脂綿で拭ったりするが、アキラの知っている過程を飛ばしてぶっ刺された。

『はい、終わり』

注射器が機械の中に収納されて、口が閉じ、また開いて今度は。

『ほら、飴だ』

レモン色の棒付きキャンディを持った小さなアームがアキラの目の前に差し出された。

「き、いろ……」

合成着色料の鮮やかな黄色だったが、アキラにとってやけに映えた色に見えたのはこの部屋が真っ白だったに違いない。