蒼城の小説連載ブログ@不定期

不定期でオリジナル小説の連載をしていきます。

琥珀色の壁 #2 冷凍されていた過去

The Wall ~ 琥珀色の壁 ~ - 目覚めた少女 

タイトルを変更して、The Wall ~琥珀色の壁~として、連載&掲載しています。

前話 

 

aoshirosora.hatenadiary.com

 


 


 

渡されたレモン味の飴を舐め始めたところで、アキラは思わず飴を噛み砕きたくなる光景を見た。目の前の大きな鏡が貼ってある壁が、鏡と白い壁のパーツの組み合わせにようにバラバラになって、左右の壁に収納されたのだ。
継ぎ目どころか、パーツが宙を飛んでいたのだ。

「マジックミラーだったんだ。驚かせてすまないな」

白衣を着た子供が手元のタブレットの画面を見ながら、アキラに謝ったのだが、アキラにとっては見当ハズレな謝罪だった。マジックミラーよりも鏡や壁が宙を舞って収納された方が驚きである。

一緒にいた女性は白衣よりも対象的な、真っ黒な軍服のような制服を聞いていた。腰には辞書のような厚さの目を引くアンティークな本が提げられていた。

彼女たちの後ろでは、3人の白衣を着ている人間がアキラに目もくれずに、画面や空中投影されるホログラム、珈琲のサイフォンのような器具に集中している。

「はじめまして、シャルロット=ジークフリード。古き血と不可侵の壁を守る一族の末娘」

前半はすっと頭に入ってくるが、後半が咀嚼理解するのに時間がかかってしまった。

「私はアオバ=クヌギ。こちらの女史のように名告りはない、ただのバイオ科学専門の博士だ」

博士の紹介のほうが理解は早かったが、見た目はアンバランスである。天才の子供はアキラ自身も会ったことはあるが、表情や動作が大人そのものである。違和感があると言えば、シャルロットの真っ赤な目もそうだった。

「君の理解力が凡人であることを願って、丁寧に説明する。馬鹿にしているわけではない。真面目に凡人であることを願っている」

水浸しのまま飴を口の中で舐めているアキラの表情を読み取って途中でフォローを入れてくるが、フォローになっているのかわからない。

「順序良く行こう。壁の番犬当主を何時間もここに置いておくことはできないしな。

私たちにも、君にも良い知らせだ。君の持っている常在菌を含め、この時代の生き物が適応出来ない菌はなかった。……君の名は?」

タブレットから顔を上げて、目をかなり細めて、アキラをみた。

「一ノ瀬アキラです」

名乗ってから気づいた。名前と苗字、どっちが先なのかわからなかった。

「イチノセ、アキラ……。日本人だから名字がイチノセで、アキラが名前だな。ここでは名前を聞かれたら、アキラ=イチノセと名乗る方がいい。その方が楽だ。

ではアキラ、逆に君がこの時代の環境に適応できるように勝手に医療的な措置を施させて貰った。ソーシャルワーカーが後で君につくと思うから、権利の侵害だと思うことはその人を質問攻めにしてくれ」

「科学者ってすぐ他人に説明を押し付ける……」

「魔女はすぐに煙に巻くだろう」

他の人間が作業している机からシャルロットが何かを持ってくると、彼に手渡す。眼鏡だった。道理で見にくい、と彼は眼鏡をかける。

「正確な年代測定はまだだが、100年前に君は冷凍封印されていた。科学的に冷凍され、その上から魔術で封印を施されていた」

アキラの追いつこうともがいていた思考が止まった。アオバが、それこそ少年らしくない親のような優しさで、同じことを話す。

「君は100年間、眠っていたんだ。理由はわからないが、今の時代なら解ける封印だった。

意味を言い換えれば、アキラが生きていた時代よりも100年の未来。残念なことに近くて遠い時間の差だから、君が何を理解して、何が理解できないのかわからない」

冷凍保存。そう言われて、自分の周りにあった水と結びついた。この水はたった今、解凍されたから出来た水であろう。100年前の水。

「今は、何年ですか」

飴を舐める気が無くして、手で持つ。

「2145年、8月。暦に関しては変わっていないはずだ」

最後の言葉が曖昧だった。

「私は2016年8月27日……確か、吹奏楽の練習をしていた。
でも、これ、制服が違う」

「違う?」

「中学の制服とは違う。中学はセーラー服。これはブレザーだし、冬の格好みたい」

アキラが来ているのはブレザーの制服。ブレザーの下にはベストまで着込んでいた。

シャルロットはアキラの言葉を聞いて、指で数え始めたが、何を数えたのかは口に出さなかった。

「長期冷凍保存された人間は数少ないからな、記憶の混乱もあるんだろう。ショックを受けるのはわかっているが、過去に戻ることが出来ないから、少しずつ理解をして欲しい」

優しく言われているが、アキラの頭のなかでは「夢なら早く覚めろ」と唱え続けている。年の離れた姉がいる家に帰りたいと願っている。

「検査結果が全部出た。ソーシャルワーカー付きで保護を申請しておく」

「私の方はまだね。クヌギ博士、ソーシャルワーカーは私から圧力かけて早くこさせるからここで少し保護しておいてくれる?」

「ああ、そのつもりだ。長くかかるようならクロノイド職員の誰かに見ていてもらう。

おい、ジークフリード女史。情報過多になるような退出方法は取るなよ」

眼鏡を外し、胸ポケットにしまった。

クヌギ博士の指摘に、彼女は合点がいき、直前で何かをしようとして上げていた手を下におろして、ドアの方へ向かった。

「心配しないでね、愛するべき過去。
君の人生が琥珀色の過去と蜂蜜色の未来であることを、私は祝福する」

また聞き覚えのない別れの挨拶の仕方をされてしまったので、アキラは半口を開けた状態で、シャルロットの退出を見送ってしまった。

「名告り、に祝別……説明はソーシャルワーカーに任せとくとするか」

「え」

「……」

アキラが濁音じみた音を出すと、困ったようにクヌギが頭の髪をかき混ぜて、ため息を付いた。

「確かに、愛するべき過去、であるから私も少しは愛する行動をするとしよう」

白衣とタブレットを後ろに投げて……投げたものは作業していた職員が慌てて受け取った……アキラに近づいて、手を差し出した。

「こう見えて私は60歳を越えているんだ。驚きだろう?
この研究所ではSクラス職員だから、何でも融通は効く。

では、服を着替えて、美味しいもの食べて、良い景色でも見よう」

見た目と同じ年齢のような、無邪気な笑顔出されたのでアキラは手に取って握手をした。

「さて、孫の如くかわいい服を着せるか」