蒼城の小説連載ブログ@不定期

不定期でオリジナル小説の連載をしていきます。

琥珀色の壁 #4 ソーシャルワーカーの猫

 小説家になろうで前話掲載中→

The Wall ~ 琥珀色の壁 ~

aoshirosora.hatenadiary.com

 


 ジェシカと別れ、クヌギに連れられてアキラはカフェテリアに来た。
洗浄室からカフェテリアまではエレベーターで1つあがり、廊下を歩いてすぐ近くだった。それまでの移動の間、不思議と誰にも会うことはなかった。

 カフェテリアに入ると、まずは入って右側が壁の代わりにガラスあり、外から燦々と太陽の光が入ってきていた。カフェテリアの広さは200人程が同時に食事を取れるくらいの広さだった。

 アキラがテーブルや椅子の先にある窓の外の風景に、目をこらそうとしたが、クヌギに名前を呼ばれて反対を見る。

「日本語表示にしたから、自分で好きなのを選びなさい」

「はい。なんか食券販売って学食みたですね」

 無難にカレーライスを選んで、リゾットセットを頼んだクヌギに連れられて窓際の4人テーブルに着いた。

 窓の外の印象は広大な森林を必要に応じて伐採し、建物を建てたようだった。よく見れば木々の間を道が走っている。

「あの高いビルは?」

 円形に広がる街の中心に東京タワーよりも遥かに高いビルがあった。一番に目につく、そのビルを指差して問う。問われたクヌギは、スプーンで掬ったリゾットに息を吹きかけて冷ましていた。

「あれはセントラルタワー。この世界の中枢があのビルに集積されている。大統領の1次サーバ郡もあそこにある」

「サーバ?ある?」

「ああ、大統領のメインサーバは何処にあるかは秘匿事項だが、1次サーバはあそこにある」

 あちち、と言いながらもリゾットを食べる。

「……そうか、アキラの年代には人工知能の黎明期前だったな」

 クヌギは自分が食べるのを手に止めて、逆にアキラに食べながら聞くように促しながら、説明をした。

 現在、アキラがいる位置はメトロポリタン魔術科学学院、通称カレッジの分棟の研究棟。ここからは見えないが、渡り廊下でカレッジの本棟と繋がっている。カレッジを含めて、メトロポリスの主要施設はセントラルタワーを中心に、建てられている。配置は緊急時対応マニュアルの準備項目で設定されたもの。そして、セントラルタワーの最上部分に位置し、マニュアルを設定したのは人工知能イデアイデアは世界初の人工知能の大統領であり、開発者から与えられた使命を全うすべく稼働をしている。

「失礼ですけど、人工知能に大統領って無茶なんじゃないんですか」

「そうか?開発者の入力に間違いがなければ、より合理的で理性的な大統領だ。膨大な変数の演算を行い、予想をシミュレートし、結果を反映させる。経年劣化も自分自身で考慮を行っており、セキュリティ対策も独自のものを開発し実行している。……イデア本人も使命達成後は機能停止を望んでいるから、酷使は出来ないだろうな」

「……すみません、理解しようと思いますが、理解出来ないです」

「そうだろうな。ちなみに君をカレッジに引き渡してくれたのがイデアだ。いつか会うことがあると思うから、伝えとく」

「大統領に会うって考えても、現実感ないですね」

 アキラだけが食べ終わり、話も外にある他の建物や区域に変わるところで、割って入る猫が来た。

「はじめまして、アキラ=イチノセ。そして、Dr.クヌギ、こんにちは」

 唖然とした顔でアキラはテーブルの上の黒猫を見た。綺麗な琥珀色の目でアキラを見ており、クヌギにも顔見知りのように話している。

「ねねねねねねね、猫が喋ったあああ!?」

 予想していなかったアキラの声にクヌギも猫も目を丸くし、周りがアキラに注目する。

「喋れる猫もいるだろ。何言っているんだ?」

「でもカレッジではあんまり見ないでしょ」

「あれ?あの子って……どこで見たんだっけ?」

「先週の輸送で見たんだろ。博士といるところを見ると、無事に解凍出来たんだな」

カフェテリアがアキラに気づき、ざわつき始めたところでクヌギが手を数度叩いて、声を少し張り上げて言った。

「自由時間なところ申し訳ないが、彼女について無駄口はやめたまえ。あと、君ら、私は輸送時に戒厳令を敷いたはずだが?あとで、反省を込めてレポートを提出しろ」

「人の口に戸口は立てられないと言いますし、無理じゃないですか」

 アキラが顔を真赤にして、こじんまりと座り直したところでカフェテリアも通常のざわめきに変わった。クヌギに睨まれた一団はすごすごとカフェテリアを後にしていた。

「私の名前は、アミュレット。ソーシャルワーカーとしてシャルロットお嬢様から遣わされました。魔法はご存知と耳に入っていましたが、猫が喋るのはご存知でないとは驚きです。しかし、こちらの配慮不足でした」

「そもそも猫の声帯で人間の言葉を発言出来るのか?解剖学的に無理だろう」

「貴方の疑問は、七面倒臭いのでスルーしたいのですが。アキラがいることもありますし、説明しますと、猫は命を重ねるに連れて、魔力が高まり世界が広くなるんです。世界を理解するために、私達猫は人間の言葉も理解するようになるんです。また、実際に声帯を震わせて会話をしているのではなく、一種の念話です。低級魔法ですが、狭い範囲で言葉を言語の壁を越えて伝える事が可能です」

「なるほど、いやいや、疑問は投げかけるものだな」

「カレッジに猫は用事はないですからね。今では猫も寡黙ではなくなりましたから、Dr.クヌギが疑問に思わないのも不思議ではないでしょう」

「アキラ、こちらの猫は君のソーシャルワーカーだ。ジークフリード女史が手配したのだから、魔法側の人間が来ると思っていたが、まさか、猫が来るとは私も驚きだ」

 猫がソーシャルワーカーなの、とアキラが疑問に思ったが、今回は口に出さなかった。

「卵から孵ったばかりであり、大人の鳥でもあるこの子の面倒を見るには身軽なものが良いと判断されたようです。私も9つ目の命ですからそろそろ引退を、と考えていたものですので、最後の仕事として請負ました」

「そうか。引退最後の仕事、頼んだぞ」

「お任せを」

 アミュレットが頭を下げると、アキラに向き直った。

「アキラ、食事が済んだのなら行きましょう。そろそろ日の入りの時間なので、夜までにやることが沢山ありますから」

「もう行くのか」

「ええ」

「えっと、クヌギ博士とはお別れですかね。まだ頭が混乱しているんですが、お世話になりました?」

 立ち上がり、首をかしげながらもアキラは頭を下げた。

「なんだね、その疑問符がついたような言葉は」

 くふふ、と子供のように笑ってリゾットを食べ始める。

 アキラはこれまでのことを、目覚めてからほんの数時間のことを思った。例えば医療処置をした医者が患者の面倒をここまで見るだろうか。メンタルケアが必要な子供でもないのだアキラは。

 このクヌギという人物はとても面倒みが良いのだろうか。それで片付けてもいいのだろうか。眠って、目覚めて、ここに来たアキラはどこまで彼のお世話になっていたのかは知りよしもない。

「どこまでを感謝したら良いのかわからなくて」

と、ありのままの言葉を述べると、クヌギはキョトンとした顔をして、更に顔を緩ませて笑った。

「今は食事を奢っただけだ。ここの味はいけるだろう?住まいのことが落ち着けば、外で美味しいものをご馳走しよう」

「楽しみしていますね、ありがとうございます。お別れの言葉は、さようなら、でいいんでしょうか?えっと、ジーク、フリードさんは変わった別れ方を言っていたので」

言葉を記憶の中の単語を選びながら、アキラは言った。

「それは祝別ですわね。主に魔法族が用いいるものですので、学者に対しては特にいらないでしょう」

「いらないとはなんだ、いらないとは」

「シャルロットお嬢様は変わっていらっしゃるお方ですから、科学者風情にも祝別をしますわ。祝別の効果が殆どないと分かっているのに……。
アキラ、祝別とは魔力を用いて”幸運を”と相手に送るものです。多くは幸運を祈るものでありますが、呪いを手向ける場合もあります」

「なるほど。……私に魔法は使えないけど、次までお元気でいてください、クヌギ博士」

刺々しい言葉をクヌギに向けてアミュレットは、簡単に祝別について説明をした。一方、アキラはクヌギぬ再び頭を軽く下げてさようならと言った。

クヌギはリゾットを食べ、アキラはアミュレットに連れられて自分自身は知らない目的地に向かうはずだった。が、短い先の予測は今の現実に覆される。

カフェテリアを轟音と共に爆発が襲った。