蒼城の小説連載ブログ@不定期

不定期でオリジナル小説の連載をしていきます。

琥珀色の壁 #5 ジャバウォック、邂逅

 小説家になろうで前話掲載中→

The Wall ~ 琥珀色の壁 ~

 

aoshirosora.hatenadiary.com


 

  響く轟音と共に、沸き立つ砂埃のような煙。 どよめくどころかパニック寸前になっている学食。

アキラが風圧に体が仰け反りかけるが、何かに庇われる。自分自身でも顔を腕で庇っているが、別のものが庇ってくれた。

目を開けると大きな獣がアキラを庇うように立ちふさがっていた。

「あれ何でしょう?このタイミングで来るということは、この子に関係がある確率が高いですね」

アミュレットと同じ声で話す、黒豹。

「アミュレット、さん?」

「アミュレットでいいですよ、アキラ。……驚かせてごめんなさい。私はこの姿にも成れる猫なの。
危ないから私の傍から離れないでね」

低く唸り声をあげて、騒ぎの中心を警戒しながら母猫のようにアキラを守りにはいるアミュレット。

「ここは科学的にも魔術的にも二重に三重に守られている場所だぞ。直ぐに警備が来るから、学生たちは冷静に退避せよ」

クヌギ博士が手に持った端末を操作しながら、学生たちに指示を出す。

学生以外の職員と思われる人間が、クヌギ博士の周りに集まり、指示を仰ぎ始める。

「煙で見えん。誰が、排気装置とスプリンクラーを作動させて来い。戦闘可能の職員は前衛に配置。非戦闘員は学生たちの誘導を頼む」

排気装置とスプリンクラーが起動し、煙が収まる。

まるで、騒ぎが収まるのを待っていたかのように、騒ぎの中心にいた人物は静観をしていたようだった。

「さて、学徒達がいなくなるのを待ってくれていたようだが、我がカレッジに大穴を空けてくれたことには、些か怒りを覚えるぞ」

黒い影と思えるその者の性別はわからない。すっぽりと暗色のマントを纏ったその者は、深く被ったフードの影から、不敵な笑みを浮かべている。口元にシワは少なく、少なくとも若齢の人物だ。

その者が従えているのは更に暗い闇。この室内で飛びだつかのように広げている闇のカーテンの翼。その翼には鉤爪があって全てを引き裂くかのよう。赤い鋭い眼光。そして口元の牙は鋭い。

その恐怖の化身が、クヌギたち敵対警戒している職員たちではなく、アミュレットに庇われているアキラに視線を合わせてくる。口を更にあけてくる姿は、まるでアキラを飲み込もうとしているようにも思える。

恐怖がアキラに笑いかけてくる。

戦慄が走る。そこにある恐怖は、怪物と退治した恐怖ではなく、何かを内なるものを呼び覚まそうとしている恐怖だった。名前をつけることができない、何かが浮かんでくる。

「あ、ああ、ああああ……」

「アキラ?」

フラッシュバックが走る。

ーーーー 黄色いマントが翻る。赤い色が装飾された黄衣が舞う。見たこと無い艶やかな笑みを浮かべて、何かを飲ませてくる姉さん。揺らめく燭台。光る魔法陣。姉さんに囁く黒い影。怖かった。ただ怖かったけど、体が動けなかった。姉さんの唇が何かをいう。ああ、なんて言っていんだけ。

「アキラ、目を覚まして!」

「だ、大丈夫です」

尻尾でアキラの顔を叩かれて、アキラは正気に戻る。一瞬だけ意識が飛んでいたようで、自体は変わっていないが好転もしていない。

「はじめまして、カレッジの皆様。私の名前はジャバウォック。恐怖の象徴にして、恐怖の指先。アリスが見た悪夢。今宵、100年の眠り姫を殺しに参ります」

敬々しく、その恐怖の象徴の女が頭を下げると、後ろに控えていた化け物も頭を垂れる。だが、目線は依然としてアキラを見たままだった。

「……暗殺が得意と聞いていましたが、こう堂々と姿を現すとは、ジャバウォック」

「得意なだけです。たっだ、今回は物語の君を殺せるということもあり、年柄もなく、私たちは張り切っていますわ」

「アミュレット、もう敵である証明は十分だが、こいつはアキラに危害を加える人物なのか」

「ご賢察通り、私は敵です。私は全ての恐怖にして、全ての敵。誰の味方にもなりませんわ」

フードを取り、手を合わせて微笑えむ恐怖の淑女。爛々と輝く赤い目は化け物と同じ。

「では、我々の敵だな。大人を怒らせると怖いぞ、お嬢さん」

クヌギ博士が指を打ち鳴らすと、空中に雷電が走る。

「我らがエレニウム技術を特と味わっていくといい。……魔術干渉術展開開始。総員、戦闘準備」

バチバチ、と無報告に電気のような物質が走り回る。

戦闘可能職員と言われていた、クヌギを含める職員たちが利き手に装着してあったリング型の装置を中心に薄緑色の円形のホログラムが浮かび上がる。人間が解読不能の文字と、凡人が解読不能の数式が描かれている。

「さあ、動作実験だ。行動不能になるまで実験をさせてもらうぞ」

「ジャバウォック、歌って」

ジャバウォックが背後の化け物・ジャバウォックに語りかける。と、瞬時に化け物が反応し、耳障りな泣き声を周囲に巻き散らかす。

すると、壁や天井、床のいくつかで小さな爆発が起こり、煙を上げて何かの装置が壊れる。

「ちっ……充電式ではないものは下がれ。アキラ。ここは食い止める。逃げたまえ」

「下賤な科学が魔法に勝てるはずないでしょう?学んでくださいね、学者様」

「学ぶのを止めたらそこで、人類は進歩をやめる。滅びを待つ性分ではないんでね」

半分の職員の腕からホログラムが消える。だが、クヌギ博士を始めとした半分がまだ、残っていて、対峙を続けている。

「……騒ぎを聞きつけて、きっと警察隊が来ます。それまではご無事で。

アキラ、背中に捕まって。逃げましょう」

「でも、……」

「大丈夫。科学はジャバウォックがそこまで言うような軟弱なものじゃありませんよ」

「そう!失敗は成功の母!困難は私の大好物!さあ、データ採集だ」

「……マッド・サイエンティストですし」

アミュレットに強く促されて、アキラは背中に乗る。肩のあたりを掴むと、アミュレットはそのままこの場から走り出した。

「おやおや、話は聞いてくれてないみたいですね……まだ宵の口でもないというのに」